2012 北部タイの自然

Buad Pa/ブアッ・パー 森林出家儀式について

 2012年3月末、2年振りにタイ北部の都市チェンライから車で2.5時間程の白カレン族の村に行く機会をいただいた。取材の目的は、村が管轄している山や森の樹木に仏教僧が身にまとった僧衣片を巻くことにより、僧に見立てる=出家させる儀式の取材。当初、他を圧して成長した樹木を選んで保存するのが目的かと思い込んでいたが、実際に儀式を取材して見られたのは、老樹も若木も、太い木も細い木もほぼ全ての木の幹に僧衣を巻いていた。現地に滞在して研究を続けている富田育磨(IKUMA TOMITA/GONGOVA)氏から、この儀式は英語でBuad Paと表記するに対して日本語では「ブアッ・パー/森林の出家儀式」という表記および言葉を与えようと聞かされ大変的を得た言葉であると感心すると同時に、日本国内にもこのような取り組みが行なわれていないか関心がわいた。

 既に別の項で記したことであるが、10年近く前、兵庫教育大学のビデオ教材の制作をお手伝いしたことがあり、その中の一つに「社町周辺の里山と社寺林が語るもの」という兵庫教育大学周辺の里山(自然環境)とそれを支えた社寺林の関係を解説したものがあった。これについては下手な解説を加えることなく「社寺林」という文字を提示するだけで当方の引用の意図が伝わるのではないか。それにしても「森林出家」とはいい言葉であり、いい響きである。

 儀式の背景は、この乾季から雨季に移行する時期に山岳少数民族は糧=耕作地を得るため各所で山焼きを行う。空が煙で覆われることもあるというくらい大規模なもの。しかし、民族によっては山を焼く周期が短く、樹木(自然)の再生を待つことなく火を放ち、保養・涵養の力を奪われた山面も目立って来ている。それに追い討ちをかけるように、都会から山に移住する人もあって、それらは近代的な機械を持ち込み山を一大プランテーションに変容させてしまう。文明という理想・武器が自然や民族の伝統を破壊するのだ。森林出家儀式はその大津波に抗するささやかな意地である。

 村の長老に当方のような異国の人間や、同じ国であるとは言いながら都会しか知らない学生に、この儀式への参加や取材を許諾する背景にどのようなメッセージを込めているのかを聞いた。長老は、「多くの人にこのような儀式を通じて自然を守ろうとする人間がいることを伝えたい」というものだった。村の若者や子どもたちには普段どのような形でこの姿勢を教えているのかの問いに対しては、「言葉で教えることはしない、大人が民族の伝統的な生活に従う姿を通して背中で教える」という答えだった。

 我々都会に住む人間には、突きつけられた便利さの情報の渦の中でかき消されてしまった「メディア」形態である。


 ここに収録するのはその取材の合間に撮影した村やチェンライの自然の一コマ。

2010年の取材は8月、雨季もそろそろ終わり頃だった。今回は乾季の終わりで、丁度正反対の季節になるので、たくさんの昆虫との出会いを期待して行ったのだが、ちょっと期待はずれ。ただ、村のあちこちの木に着生しているデンドロビウム系のランが開花の時期を迎えていた。


 改めてここに取材に就かせていただいたことを心より感謝申し上げる。

(この村については「GONGOVA2009、GONGOVA2010」を検索の上、参照ください。)

(2012年、GONGOVAは Grassroots Overseas NGO Volunteer Activity Programme,[GONGOVA] と一部名称が変わっています)

昆虫/動画

植物/Photo

村の点景

 ◆ブアッパー国内対比資料

2018.01.28 ガイコツ山の一画、養老介護施設前の樹木を守るために、人が近づけないようにテープで囲っている様子。